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「……少しよろしいですか、勇者様」
「はい。なんでしょうか」
既に水分補給を終え、手足の柔軟体操を行っていたレオンハルトは、汗だくのテオドールへと向き直った。
「…………」
「……はい、なんですか?」
「…………」
「…………あの、テオドールさん?」
なかなか用件を言わない警備隊長に、レオンハルトの顔に訝しげな色が浮かぶ。
……一方、ここまで共に樹海を歩き進めて来たにもかかわらず、まるで息を切らしていないどころか汗1つかいていない勇者の様子に、テオドールは眉間のシワを深くしつつも、努めて落ち着いた口調で切り出した。
「……いえ、失礼。それよりも、“本当にお1人で行かれる”のですか?」
「はい。“事前に取り決めた”通り、今回のダンジョン探索は私が単独で行います」
「……今ならばまだ、私を含む数名の隊員が同行いたしますが……よろしいのですか?」
1歩、レオンハルトに歩み寄りつつ、真剣な声音で尋ねるテオドール。
ブラウンの瞳に神妙な眼差しを宿し、何度も彼が確認を行うのには理由があった。
――通常、『ダンジョン』の探索といえば数人のパーティーを組んで行うのが定石。
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