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☆
(どこだ!? いったい、あいつはどこに……っ)
緑色の燐光に照らされた通路を、一陣の風となってレオンハルトは走っていた。
華奢な腕を大きく振って、細い足で苔に覆われた足場を踏みしめ、長い髪をなびかせながら、ほとんど直感だけで下へ、下へと進み続ける。
(あいつは……あいつだけは絶対に許さない。是が非でも倒してやる……!)
そのために、自分は……勇者レオンハルト・ヘルマンはここに戻って来たのだ。
卑しい魔族の衝動に支配され、人族としての品格を失ってまで繋ぎ止めた、この汚れた命を燃やして……今再び、忌まわしいこの場所へと。
ギギギ……ッ!
形のいい唇を歪ませ、小さな真珠のような歯を軋ませながら、紅と青。それぞれの瞳に憤怒の色を宿し、レオンハルトはひた走る。
そんな中……。
「ッ!」
ふと、レオンハルトは視線の先に“それ”を見つけた。
(あれは……ッ)
思わず目を見開く彼の正面……薄闇の立ち込める通路の奥に、白い体毛に覆われた獣……いや、“魔物”がいた。
長い耳をそばだて、紅い瞳で真っ直ぐにレオンハルトを見つめるその魔物は……『アルミラージ』。
およそ0.5メトルほどの大きさの、白いウサギの姿をしたそいつは、およそ数時間ほど前に“レオンハルトをジャンピエールの元に導いた”時計泥棒だった。
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