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「……分かりました」
告げられた言葉に納得した様子はなく、けれど不服げな色も示さないまま、テオドールは小さく首肯すると、そのままレオンハルトに踵を返したのだった。
「よし、テメエら! 出発だ!!」
休憩時間が終わった瞬間、パンッ! と、大きく手のひらを打ち鳴らしつつテオドールが号令を掛ける。
隊長の胴間声に、既に出発の準備を終えていた隊員達は威勢よく返事をしつつ、素早く隊列を組み上げた。
グリーブ付きのブーツが柔らかい地面を踏み鳴らす足音と共に、彼らの間に再び緊張の糸が張り詰めて行く……そんな中、
「……っ」
不意に、レオンハルトの青い瞳が僅かに見開かれた。
「……勇者様?」
目的のダンジョンに向け、改めて足を踏み出そうとした瞬間、レオンハルトの様子に気が付いたテオドールが口を開いた。
彼は眉間にシワを寄せながら、持ち上げかけた右足を下しつつ、落ち着いた声音で“既視感”と共にこう続ける。
「もしや、また“新手”ですか?」
「ええ。どうやらそのようです」
“新手”という言葉に頷いた勇者に、周りの隊員達は顔に強い緊張を滲ませた。
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