戦乙女はじめました3

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 『どうした? もっと速く走れよ』  『さっさとお前の主人の元まで連れて行け』  そんな心の声が聞こえてきそうな表情と共に、少しずつ、少しずつ相手との距離を縮め、それこそ手が届きそうなところまで近づくと、レオンハルトはおもむろに攻撃魔法の呪文を唱え始める。  「【焼き焦がせ、火炎の(つぶて)】」  感情を抑えた無機質な声音。  ……しかし、(すさ)まじい威圧感の内包された、2節からなる低級呪文が唱えられた直後、レオンハルトの小さな手の平から、およそ“数十発もの小さな炎の弾丸”が一斉に射出された。  炎系低級攻撃魔法、【ロート・キーゼル】。  主に指先や手の平から数十発の炎の散弾を飛ばすその魔法は、通常は騎士などが近接戦闘などで相手を牽制(けんせい)するために用いることの多い、殺傷能力の低い魔法だが……。  ……けれども、今回その【ロート・キーゼル】を使ったのは、“魔力の保有量も魔法の出力も、通常の騎士を遥かに凌駕(りょうが)する勇者レオンハルト”で、しかも今の彼は(はか)らずも吸血鬼(ヴァンパイア)の力を獲得していて、その上激しい怒りによって気合いも充実している。  いくら低級魔法とはいえ、それこそ噴火寸前の火山のような心境の術者が本気で行使すれば、いったいどうなるか……。  答えはこうだ。
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