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『どうした? もっと速く走れよ』
『さっさとお前の主人の元まで連れて行け』
そんな心の声が聞こえてきそうな表情と共に、少しずつ、少しずつ相手との距離を縮め、それこそ手が届きそうなところまで近づくと、レオンハルトはおもむろに攻撃魔法の呪文を唱え始める。
「【焼き焦がせ、火炎の礫】」
感情を抑えた無機質な声音。
……しかし、凄まじい威圧感の内包された、2節からなる低級呪文が唱えられた直後、レオンハルトの小さな手の平から、およそ“数十発もの小さな炎の弾丸”が一斉に射出された。
炎系低級攻撃魔法、【ロート・キーゼル】。
主に指先や手の平から数十発の炎の散弾を飛ばすその魔法は、通常は騎士などが近接戦闘などで相手を牽制するために用いることの多い、殺傷能力の低い魔法だが……。
……けれども、今回その【ロート・キーゼル】を使ったのは、“魔力の保有量も魔法の出力も、通常の騎士を遥かに凌駕する勇者レオンハルト”で、しかも今の彼は図らずも吸血鬼の力を獲得していて、その上激しい怒りによって気合いも充実している。
いくら低級魔法とはいえ、それこそ噴火寸前の火山のような心境の術者が本気で行使すれば、いったいどうなるか……。
答えはこうだ。
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