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「……ジャン、ピエール」
レオンハルトの唇から乾いた声音が漏れる。
同時に、大きく見開かれた青と紅の瞳に燃えるような怒りの色が宿り、彼の小さな拳は震えるほどに強く握り締められて……。
――しかし。
「なんだ、これ……」
燃え盛る怒りの感情とは別に、もう1つ、レオンハルトの心を揺さぶるものがあった。
それは……強い戸惑いの感情。
「何者だ」
次の瞬間、まるで刃のような剣呑な声音がレオンハルトの耳を揺さぶった。
若い男の声。けれど、“ジャンピエールのものではない”。
「答えろ、女。貴様は何者だ。なぜここにいる?」
再びの誰何の言葉。
その台詞と共に、“血溜まりに沈むジャンピエールの頭を踏みつけながら、角の生えた大柄な男は険のある眼差しでレオンハルトを注視する”。
……そう。
今、ジャンピエールは倒れ伏しているのだ。……それも、大きく広がる血溜まりの中で。
(……これは、いったい……)
レオンハルトの脳裏に空白が生まれ、そして、次の瞬間にはいくつもの疑問が湧き上がる。
――あの男は誰だ?
――奴こそなぜこの場所にいる?
――どうしてジャンピエールが倒れている?
――それに、ジャンピエールが倒れているのなら、地上の土人形達はいったい誰が……?
状況に理解が追いつかず、半ば停止しかけた思考と共に、その場に立ち尽くすことしか出来ない……そんなレオンハルトに、再度大柄な男の声が降り注ぐ。
「答えろと言っているだろう?」
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