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先のグリューンヴォルフの襲撃を受けた時のように、各々が表情を強張らせ、臨戦態勢へと入って行く中、警備隊の中で唯一余裕を失っていないテオドールは、腰に佩いた得物に手を伸ばしつつも、冷静にレオンハルトに質問する。
「敵の数は?」
「大きな気配を4つ。いずれも、先のグリューンヴォルフとは桁違いの力を感じます」
「方向は分かりますか?」
「私達の正面。それも、既にすぐ近くにまで迫って来ています。……ですが」
「どうかなさいましたか?」
「私が彼らの存在に気付いた瞬間、一斉に向こうの気配が霧散し、動かなくなりました」
「……分かりました」
(待ち伏せるつもりか……)
テオドールは小さく息をつきつつ、隊員達に向き直った。そして、周囲の警戒と今まで以上に慎重な行軍を指示すると、改めて歩き始める。
(……さて、鬼が出るか蛇が出るか……)
軽く目を伏せ、口元を引き締めながら、鬼の警備隊長は行く手を阻む狼藉者達へと意識を向けた。
今度の敵は、先のグリューンヴォルフ達以上に強力な力を持ちながら、そのくせ一気に攻めてこようとしない。加えて、待ち伏せや気配の隠蔽など、勇者の話を少し聞いただけでも分かるほどに戦略的に動いている。
……どうにも嫌な予感がしてならない。
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