戦乙女はじめました3

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 「はぁ……はぁ……」  頬から大粒の汗を(したた)らせながら、荒い呼吸と共に何度も肩を上下させるレオンハルト。  大技を放った反動か、思うように言うことを聞かなくなってしまった体を引きずるようにして、彼はゆっくりと血溜まりに沈むジャンピエールの元へと歩いて行く。  やがて、うつ伏せに倒れ伏せるジャンピエールの傍らにしゃがみ込んだレオンハルトは、そっと片手を彼の首元に添えた。  ……トクン……トクン……。  (……よかった。まだ生きてる)  指先に伝わって来た鼓動は、まさに死ぬ間際の病人のように、とても弱々しく、そして頼り無かった。  ……でも、確かに息がある。  ……これならば、“自分の手でコイツを(ほうむ)れる”……。  「すぅ……はぁ……」  軽く深呼吸を行ってから、レオンハルトはそっと小さく呪文の詠唱を開始した。  「【……集え、熱き力。渦巻け、我が名の下に……】」  形の良い唇からゆっくりと式句が紡がれるのと同時に、彼の周囲に赤色の魔力光……火属性の輝きが渦を巻き始める。  「【……邪悪を滅する聖なる炎よ。天さえ焦がす灼熱をもって、今こそ不倶戴天(ふぐたいてん)の仇敵を灰塵(かいじん)に帰せ……】」  どこか機械的で抑揚のない声音。  しかし、それはレオンハルトにとって、極限まで怒りの感情が溶け込んだ、まさにマグマのごとき激情の調べ。
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