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名誉を傷つけられ、尊厳を踏みにじられ、誇りを汚され……。そして今、貞操さえも脅かされようとしている中、胸を満たす屈辱と沸き立つような嫌悪感のせいで悪心すら催しながら……。そっと、レオンハルトは目を伏せた。
まるで、少しずつ破滅へと向かっていく己の運命から顔を背けるように。あるいは今にも潰されそうな精神を守るため、外部からの全ての情報を断ち切り、心の殻に閉じ籠るように……。トイフェルへの抵抗をやめて、それこそただの少女のようにガタガタと震え、怯えるだけの存在になりながら……。
(少し……。ほんの少しでいい。俺に魔力が、魔力さえ戻れば、こんなやつなんか……)
最後に、レオンハルトは胸の内で1つ、涙に濡れた言葉を吐いた……。
――その、直後だった。
「おっと。そこまでだよ、トイフェルくん。それ以上その子を泣かせるような真似は、例え魔王様の孫でも見逃せない」
不意に、どこからか声が響いた。
「……何?」
数瞬後、顔を上げたトイフェルは、険しい視線を周囲へと巡らせ……。
(え? え……?)
同時に、レオンハルトは数秒ほど状況を忘れ、思わず困惑気味に瞬きを繰り返した。
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