89人が本棚に入れています
本棚に追加
(今の声……まさかっ)
不意に脳裏を過った“その可能性”を、しかしレオンハルトはすぐさま否定する。
(そんな、ありえない。確かに“ヤツ”の息の根は止めたはず……。きっと、タチの悪い幻聴か何か――)
「もう大丈夫だよ、勇者ちゃん。僕が今すぐにキミを怖い怖い悪者から奪い返してあげるからね」
「だから、もうほんの少しだけ待っててね」と、まるで大人が子供に言い聞かせるような“ヤツ”の物言いを耳にした瞬間、レオンハルトは改めて両目を見開き、今までとは違う意味で体を震わせ始めた。
(……あ、あの野郎……ッ!!)
思わず小さな両手をぐっと握り締めた瞬間、弾かれたように起き上がろうとする。
……間違いない。“ヤツ”は、ジャンピエールはまだ生きている。
あの業火の中で、いったいどういうカラクリを使ったのかは分からないが……しかし、
(あいつは……あいつだけは絶対に許せないッ。是が非でもぶっ潰す……!)
全身の血が沸騰しそうなほどの怒りに駆られながら、今までのしおらしさが嘘だったかのような剣幕で、息を吹き返したようにレオンハルトは体勢を立て直そうとする。
最初のコメントを投稿しよう!