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「ッ!」
不意に背後から聞こえた風切り音に反応し、反射的にトイフェルは片腕を持ち上げた。
息を呑みつつ、己の直感に従って開いた拳を真後ろに突き出した……次の瞬間。
ザシュッ!
――矢のような速さで飛来した“風の刃”がトイフェルの片腕に直撃し、無骨なガントレットに包まれている彼の腕をその分厚い手甲ごと深く切り裂いた。
「ぐ……ッ」
燃えるような腕の痛みに襲われて、思わず顔をしかめるトイフェル。
鮮血が舞い、激痛が駆け抜け、意識すら一瞬白みかけるほどの衝撃を片腕に負いながら……しかし、それでも彼は口の端に笑みを浮かべた。
「……そこに隠れていたか、ジャンピエール」
そう。
……なぜなら、たった今腕を突き出すのと同時に走らせた視線の先に、ようやく“あの男”の姿を捉えたからだ。
「やぁ、トイフェルくん。さっきぶりだね」
友好的な口調と共に、ジャンピエールは小首を傾げて微笑んだ。
「……おい貴様。なぜだ? いったい、なぜ生きている……?」
「ははは。答えると思うかい? そんなこと」
軽口と共に肩を竦めつつ、わざと相手の神経を逆撫でする笑みを浮かべながら…………。
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