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当然、事態についていけていない隊員達の間にも、おかしな空気は伝播していく。
そして、
「「「…………っ」」」
……ほどなくしてテオドールを含む警備隊の面々は、はっと何かに思い至ったように、無言のまま、ゆっくりと首を“彼”へと向けた。
「……皆さん、下がっていてください。ここは私が引き受けます」
そう言って、息を呑むほどの闘志を視線に宿し、1歩、前へと進み出たのは……金髪碧眼の美丈夫。右手にショートソードを携え、左の拳にはいつのまにか風系の強化魔法を施していた“彼”は、テオドール達が忠誠を誓う『王国』が誇る若き勇者である。
『ヴ、ヴアアアアアアアアアア!?』
その時、不意に吹っ飛ばされたシュタールベーア達が一斉に声を上げた。
完全に相手の意表を突いて襲い掛かったと思ったら、ワケが分からない内に迎撃され、無様に転げ回り、そして今、思い出したような激痛に全身を苛まれているのだろう。
テオドール達の周囲3方向から、聞くに堪えない絶叫を撒き散らす鋼の大熊達は……しかし、それでもすぐに体勢を立て直すと、赤黒い瞳をあらん限りに見開いて、怒り狂う瞳の中に1人の男を捕捉する。
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