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だが、自身の倍以上もの体躯を誇る怪物達に睨まれても、彼は微塵も動じない。
それどころか、逆に決然とした勇者の視線に射竦められたように、シュタールベーア達の方が狼狽えてしまう。
闇を溶かしたような漆黒の鉤爪をだらりと下げ、臨戦態勢を整えながら……しかし、蛇に睨まれた蛙のように、微動だにしなくなった彼らを前に、勇者は1度大きく息をついた。
「……はあぁ」
そして同時に、長い睫毛に縁取られた瞳を伏せた……直後、
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
視線を外した勇者の元へと、いきり立った1体のシュタールベーアが突っ込んで行った。
汚い咆哮と汚物のような臭気を発する涎を撒き散らしながら、全身全霊、乾坤一擲の特攻を仕掛けた彼は、眼前の敵を挽き肉に変えるため、己の持てる力全てを右腕に凝縮して薙ぎ払った。
ズシャアッッッ!!
――数瞬後、肉を切り裂く斬撃の音と共に、赤黒い血液を噴き出させながら宙を舞ったのは……“シュタールベーアの右腕”。
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