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『ヴアアッ……!?』
敵の体を捉えるはずだった右腕を斬り飛ばされ、痛みと驚愕に顔面を引きつらせながら……しかし、勇み足を踏んだ鋼の大熊が最期に感じたのは、身を焦がすほどの怒りでも、全ての思考が消し飛ぶほどの動揺でもなかった。
『ヴ、ヴァ……』
今までの威勢が嘘のように思えるほど、か細く、力ない鳴き声と共に、瞳を震わせる彼の脳裏を埋め尽くしたもの……。
「はあっ!!」
敵の勇壮な掛け声と共に、迫り来る白刃によって掻き立てられるその感情は、いっそ生まれて来なければ良かったと思うほどの……凄まじい恐怖と絶望だった。
ズシャッ!!
『ヴゥ……!』
『ヴオオオ!』
容赦の無い一撃によって仲間の1体が屠られた瞬間、残りの2体の間には強い焦燥が駆け抜け……。
……そして、同時にそれは彼らを修羅の巷へと駆り立てる引き金となった。
『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』
この時点で、シュタールベーア達は悟っていた。
あの敵は強い。
それこそ、仮に先行した1体を合わせ、4体で襲い掛かったとしても勝てないほどに。
……だから、もはやなりふりなど構っていられない。
それほどまでに、あの男の強さはモンスター達に焦慮を感じさせ、恐れを抱かせ、絶望を刻み……そして、“奥の手”を使う決心をさせたのだ。
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