勇者レオンハルト

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       ☆  ――鬱蒼(うっそう)と草木の生い茂る密林。  道らしき道などどこにもなく、また、昼にもかかわらず薄暗く、どこか陰気な雰囲気の立ち込めるこの場所は、現世(うつしよ)でありながら、足を踏み入れる者全てに、あたかもこの世ならざる異界のごとき不気味さを感じさせた。  『グリューンメール樹海』  それは、この世界における最大規模の大陸であり、北と南に大きく伸びる楕円形の大陸、『中央大陸』の中心から少し北寄りに位置する広大な樹海である。  その面積はおよそ、小国一つをすっぽり覆ってしまうほどで、林立する木々達は、それぞれ競い合うように高く伸び、四方八方へと枝葉を広げて日光を(むさぼ)っていた。  「あの、テオドールさん。そろそろ休憩にしませんか?」  昼下がり。  道標(みちしるべ)のように点在する木漏れ日の道を、カチャリ、カチャリと身に着けている鎧を鳴らしながら、ふと、前を行く先導に尋ねたのは、金髪碧眼の美丈夫。古くから続く王国の歴史の中でも類を見ない天賦(てんぷ)の才を発揮し、史上最年少で勇者に任命された少年、レオンハルト・ヘルマンである。  比較的軽装の部類とはいえ、手甲やグリーブなど、体の要所要所に身に着けた防具に加え、ロングソードとショートソードの二振りを身に着けている彼は……しかし、大した苦も無く、涼しい顔で苔むした木の根に覆われた悪路を進んで行く。
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