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『『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』
木々をざわめかせ、地を震わせる咆哮と共に、シュタールベーア達はついに最後の作戦を開始した。
『ヴアア!!』
『ヴオオオ!!』
2体はそれぞれ両腕を地面に付くと、全身の毛を逆立たせ、【身体強化】と【硬化】のスキルを行使して……。
……そして更にもう1つ、鋼の大熊最大にして唯一の魔法を発動させた。
『『ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』』
けたたましい怒声を打ち上げると同時に、一瞬、怪物達の周囲の地面が盛り上がったと思った、その直後――。
ボゴオオオオッッッ!!
まるで爆発のような衝撃と共に、“土石の鎧”を纏った2体の大熊が勇者へと突進した。
……その様は、比喩でもなんでもなく、まさに迫り来る壁だった。
土系強化魔法、【ボーデン・マハト】によって巨体を包んだシュタールベーア達は、今までの比ではない圧倒的な威圧感を伴って、眼前の強敵へと肉薄。全身凶器と化した肉体でもって若き勇者を圧殺しにかかる。
――刹那。
「小僧……ッ!」
「「「勇者様……ッ!!」」」
『ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
テオドールが息を呑み、警備隊の面々が悲鳴を上げ、怪物達が怒号を打ち上げる。
交錯する感情の波がぶつかり合い、渦をなし、激しく逆巻いて……。
……そして、彼らの荒れ狂う情動は全て、1人の青年へと収束していく。
そんな激動の中心で……しかし、周りの喧騒など全て些末事と言わんばかりに、凪いだ湖面を思わせる静かな声音で、冷静に、冷徹に、若き勇者は呪文を唱えた。
「【……風よ、疾れ!】」
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