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カッ!
一瞬、勇者の手元から緑色の魔力光が迸り、ドウッッッ!! と、周囲一帯を一陣の風が通過した……直後。
『ヴ、アアア……ッ』
『グウウ……ッ』
「「「な……っ!」」」
……テオドール達の目に飛び込んで来たのは、体に“真一文字の剣傷を刻まれ”苦悶の呻きと共にたたらを踏むシュタールベーア達の姿。
そして、いつの間に抜剣したのか、最初に持っていたショートソードではなく、もう一振りのロングソードを抜き放った体勢で残心する勇者の姿だった。
「……今、いったい何が……」
不意に警備隊員の誰かが、彼らほぼ全員の心境を代弁した。
そんな中、
(アイツ……)
ただ1人、先ほどさりげなく勇者を小僧呼ばわりしていた隊長のテオドールだけは、微かに捉えていた先の光景を反芻する。
……たった今、彼らの目の前で起こった事。
それは、言葉にしてしまえばどうという事も無い。
ただ、“霞むほどの速さでショートソードを鞘に納め、代わりにロングソードを引き抜いた勇者が、瞬間的に風系強化魔法【ヴィント・マハト】を施した得物で、飛びかかって来た鋼の大熊をぶった切っただけ”だ。
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