89人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
こんなダンジョンは見たこと無い。
……いや、“そもそもの話”……。
「…………」
ちらり、レオンハルトは視線を左右の壁へと向ける。
一面苔むしていて、ところどころに青白く発光するキノコが突き出した緑色の壁……。
(まさかとは思うけど……)
一度足を止めつつ、手甲に包まれた右拳に力を溜めた彼は……次の瞬間、その右腕を壁へと叩き付けた。
ズドンッッッ!!
……それは、ただ引き絞り、打ち出しただけの単純な拳打。しかし、同時に齢17にして既に幾千、幾万の敵を屠り、屍山血河を築き上げ、名声を欲しいままにする勇者の一撃である。
そんなものを食らえば、当然壁は損傷する。
パラパラと苔の付着した土の欠片が壁から、そして天井から注ぐ中、レオンハルトは自分が穿った半径2メトルほどの穴を凝視する。
「…………」
長い睫毛に縁取られた碧眼を皿のようにして、じっと、ただじっと観察を続ける。
10秒……20秒……30秒……。
徐々に時間が経つにつれ、レオンハルトの“疑念”も膨らんでいく。
1分……3分……5分……。
漠然とした靄のようだった“疑念”は、時と共に形を成していき……。
……やがて、レオンハルトの懐中時計が10分が経過した事を告げると同時に、彼の中の“疑念”は“確信”へと変わった。
(あぁ、やっぱりそうか……っ)
最初のコメントを投稿しよう!