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意表を突かれ、右足を固められたと言っても、事実これしきの【錬金術】などレオンハルトにとっては大した痛手ではない。数秒もあれば余裕で抜け出せるレベルである。
だから、まずは慌てずに相手の攻撃に対処して、そこから落ち着いて挽回を図れば……と、こう考えていた勇者の目算は……しかしまたしても裏切られることとなる。
なぜなら、
『キュキュウ!』
可愛らしい鳴き声と共に、アルミラージが狙って来たのはレオンハルトの喉でも、顔でも、身に着けている鎧の継ぎ目でもなかったからだ。
(なっ……!)
年若いながらも歴戦の勇者を前に、相手の警戒全てを掻い潜り角の生えた白ウサギが狙いに来たのは……鎧に包まれた敵の懐。
がっちりと板金によって守られている、彼の胸元だった。
ぴょんっ! と、可愛らしい擬音の聞こえてきそうな挙動と共に、驚きによって一瞬動きの止まった勇者の胸に飛びついたモンスターは……しかも、ここで更にレオンハルトにとって予想外の動きを見せた。
次の瞬間アルミラージが行ったのは、その自慢の角で至近距離から彼を攻撃することでも、長く伸びた前歯で噛み付いて来ることでもなく……。
ごそっ……。
……もふもふの白い毛に包まれた前足で、勇者のプレートアーマーの内側をまさぐるという行動だったのだ。
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