樹海のダンジョン

16/25

89人が本棚に入れています
本棚に追加
/282ページ
 意表を突かれ、右足を固められたと言っても、事実これしきの【錬金術】などレオンハルトにとっては大した痛手ではない。数秒もあれば余裕で抜け出せるレベルである。  だから、まずは慌てずに相手の攻撃に対処して、そこから落ち着いて挽回(ばんかい)(はか)れば……と、こう考えていた勇者の目算は……しかしまたしても裏切られることとなる。  なぜなら、  『キュキュウ!』  可愛らしい鳴き声と共に、アルミラージが狙って来たのはレオンハルトの喉でも、顔でも、身に着けている(よろい)の継ぎ目でもなかったからだ。  (なっ……!)  年若いながらも歴戦の勇者を前に、相手の警戒全てを()(くぐ)り角の生えた白ウサギが狙いに来たのは……鎧に包まれた敵の(ふところ)。  がっちりと板金によって守られている、彼の胸元だった。  ぴょんっ! と、可愛らしい擬音の聞こえてきそうな挙動と共に、驚きによって一瞬動きの止まった勇者の胸に飛びついたモンスターは……しかも、ここで更にレオンハルトにとって予想外の動きを見せた。  次の瞬間アルミラージが行ったのは、その自慢の角で至近距離から彼を攻撃することでも、長く伸びた前歯で噛み付いて来ることでもなく……。  ごそっ……。  ……もふもふの白い毛に包まれた前足で、勇者のプレートアーマーの内側をまさぐるという行動だったのだ。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

89人が本棚に入れています
本棚に追加