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ふんっ! と聞こえよがしに鼻まで鳴らし、嫌みたらしく言い捨てるテオドールの態度に、レオンハルトは小さく嘆息し、内心で肩を竦める。
次いで、ちらりと背後を窺うと、視線の先には、この樹海行軍に随伴しているテオドールの部下達の姿が映る。
レオンハルト同様に、王国の紋章が刻まれた揃いの鎧を身に着けた彼らは……明らかに疲れを滲ませていた。表面上はまだまだ元気そうな様子を取り繕ってはいるものの、各々が額に汗を滲ませ、また息を切らしている者がほとんどだった。
……無理も無い。
いくら彼らが王国に忠誠を誓う騎士達で、テオドールの下、日々厳しい鍛錬に耐えている猛者達だとしても……。
(……俺が最前線基地に到着した昨日から、騎士隊長さんの機嫌はこんなだし……。しかも、あのおじさんの不機嫌のしわよせは全部警備隊の皆さんに向かってるもんなー……)
ぽりぽりと頬を掻きながら、レオンハルトは昨日の……そして、過去にあった似たような出来事について反芻する。
……史上最年少で勇者になった男、レオンハルトは、まだあどけなさの残る外見とは裏腹に、既に数々の武功を打ちたてて来た優秀な人物である。それこそ少年の時分から、軍事、内政、外交、はたまた教会の布教活動の一翼を担うなど、広い分野に渡り人族のために身を尽くしてきたのだ。
……しかし、往々にして突出した才能は妬みを生むもの。それこそ光が強く射すほど、影もまた強くなるように……。
レオンハルトも例外ではなかった。
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