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口に咥えた懐中時計を揺らしながら、右に、左に、葉脈のように枝分かれする通路をひた走るそんな相手に、レオンハルトは業を煮やしながら……それでも、徐々に、少しずつアルミラージとの距離を詰めていく。
(……10メトル……8メトル……いいぞ。あと、少し……!)
薄く広がる闇の中で、ゆっくり、ゆっくりと、もふもふの白い背中が大きくなる。
あともう少しで、腕が届く……!
(6メトル……4メトル……2メトル……!)
獲物はもう目と鼻の先。
腕を伸ばせば届きそうなほど近くで、アルミラージは荒い呼吸を繰り返している。
……ちらり。
不意に、前を走る白ウサギが肩越しに振り向いて、レオンハルトの方を窺った。
そして、
「おらぁ!!」
――その瞬間、バッ! と、勇者は両手を前へと伸ばし、思いっきりアルミラージに飛びかかった。
『キュウ!?』
悲鳴を上げ、紅い瞳を見開く泥棒ウサギ。
しかし、彼が慌てて逃げようとするよりも速く、伸ばされた腕はもふもふの体をがっちりと捕まえて……。
(よし……っ!)
胸の内でガッツポーズを決めながら、ターゲットの捕獲成功に頬を綻ばせた……。
……その、直後のことだった。
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