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(この場所……)
しばらく周囲の様子を観察していたレオンハルトは、ふと頭を過った“嫌な予感”に喉を鳴らしつつ、片手で腰に佩いたロングソードを引き抜いた。
(様子のおかしい迷宮の奥……深い穴の底……広い空間……)
先ほどの検証によって、レオンハルトはここが今まで攻略して来たダンジョンとは毛色の違う場所であることを理解している。
だから、確信は持てないし、何の確証も無い……。
……しかし。
(……まるで、“ボス部屋”みたいだ……)
そう。
今まで彼が積んできたダンジョン攻略の経験に照らして考えると、“こういう迷宮の奥にある意味深な空間”には、大抵“何か”がある。
それは、例えば財宝の山だったり、おびただしい数のモンスターの待ち伏せだったり……。
……あとは、それこそここが、このダンジョンの主……いわゆる“ボスモンスター”が潜んでいる部屋の場合である。
(……さあ、鬼が出るか蛇が出るか……)
年若いながらも、『王国』の威信を背負って何度も死線を潜ってきた歴戦の勇者は、静まり返った周りへと最大限の警戒を払いつつ、ゆっくりとこのエリアの探索を開始した……その直後。
「やあ、ようこそいらっしゃい。会いたかったよ、勇者くん」
……不意に、どこからともなく聞こえて来た男の声が、レオンハルトの耳朶を撫でた。
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