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「ッ……!」
反射的に身構えると同時に、レオンハルトはあらん限りに瞠目する。
「おっと。大丈夫大丈夫、そんな警戒しないでよ」
咄嗟に身を強張らせる勇者に、声の男は努めて穏やかな口調で語り掛けるが……。
……しかし、レオンハルトからすれば、一部の『王国』の者しか知らないはずの『樹海のダンジョン』の地の底で、突然何者かから気さくに声を掛けられたのだ。
その上、口ぶりから察するに相手の男はどうやら自分のことを知っている様子。
これで警戒するなというのは到底無理な話である。
「……お前は誰だ。姿を見せろ」
誰何の言葉と共に、レオンハルトはその細身の体から剣呑なオーラを放ち始める。
高ランクモンスターである『シュタールベーア』達も萎縮させた怒気に晒されながら……けれど、数瞬後に聞こえて来たのは、まるで気圧されていない男の声。
「うん。もちろんさ」
短い返事と共に、ほどなくして空間に軽やかな足音が響き始めた。
ザッ、ザッ、ザッ……。
規則的な靴音と共に、ゆっくり、ゆっくりと、レオンハルトの正面から声の主が歩み寄って来た。
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