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「…………っ」
不意にレオンハルトは足を止め、同時に鋭く息を呑んだ。
「勇者様? いかがなさいました?」
急に立ち止まった勇者へと、訝しげな眼差しを隠そうともせずにテオドールが尋ねた。
レオンハルトは軽く周囲を見回しつつ、潜めた声で告げる。
「囲まれてます、テオドールさん……」
「何……?」
『囲まれている』……。その言葉を聞いた途端、テオドールは僅かに目を見開き……しかし、すぐに嘲笑交じりに鼻を鳴らしてから、
「気のせいではありませんか? 私は何の気配も感じませんが……。おい、お前達! 今、何か周囲に気配を感じるか?」
続けて、警備隊隊長はおどけたように肩を竦め、部下へと呼び掛けた。
すると、上官のその言葉に隊員達は顔を見合わせ、次いで周囲の様子へと意識を研ぎ澄ませるが……けれど、誰一人としてテオドールの問い掛けに首肯する者はいない。
テオドールの顔に、どこか勝ち誇ったような色が滲んだ。
「……やはり何かの勘違いでは?」
「いいえ、気のせいではありません。この気配は……モンスターです。それも、相当数の」
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