第六章 黒刃の剣

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◇  数日後、 荷車の後ろに乗せてもらって、 薊花と秦盟は杏京を離れた。  むしろをかぶせてもらって門を通り、 街道をかなり進んでから、 そっと顔を出す。  ようやく桃が少し咲きはじめる頃だ。  春の土の匂いがする風が、 やさしく吹いている。 「風の叔母さん」  薊花は心の中で呼びかける。 「これで、 いいのでしょうか」  薊花だけに聞こえる声が返る。 「心のままにお生きなさい。 天の理は玄妙に隠されています」  隣の秦盟は、 何かをやりとげた後のような、 すっきりとした、 少しぼんやりとした顔で、 道の先を見ていた。  杏京が、 遠ざかっていく。
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