第九章 また、朝が来る

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 八雲は虚ろな瞳を村上に投げた。 「だから貴方の指で、この首に首輪をかけて。俺が、何処へも行けないように」  村上の頬を、涙が濡らしていた。その意味を考えるだけで、胸が張り裂けそうだ。 「そんな物がなければ、お前は不安なのか」  掠れた声が低く囁く。優しくて、けれど、やはり深く傷付いた声。 「キスをする。手を繋ぎ、抱き締める。ひと時も離れたくないから、もっと深く繋がりたいと素肌に触れる。お前を、愛しているから。それが俺の精一杯だ」  長い間繋いでいた手を解いて、村上は八雲の乱れた髪を優しく梳いた。汗が指先を伝いその腕を濡らし、悲しみは伝染する。  けれど、村上は頬にそっと手を添えて、安らかに微笑んだ。 「何処かへ行きたいと思ったなら行っていい。お前の好きにしろ」 「何故」  驚く八雲の頬を撫でる指先は、震える八雲とは違い何の迷いもなく穏やかに動く。 「本当に、何処かへ行ってもいいの」  愛されていると思っていた。村上の愛を確かに感じていた。それなのに、村上はその手を離そうとする。八雲には何故なのか分からなかった。ずっと、愛の鎖に繋がれて生きていたから。
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