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一週間。二人が離れ離れとなり、苦しみのうちで戦い続けた二年間から、たった一週間しか経っていない。目が合えばキスをして、二度と離れないように夢中で指先を絡めて、互いにまだこれが夢ではないと確かめ合っている状態だ。
くちびるを食まれる心地の良い感触を感じながら、八雲はうっとりと瞳を細める。ずっと、こうしていられたら良いのに。
しかし村上は思いの外早く身を引いた。もっと、とねだるように身を寄せる八雲を見詰めた瞳が、不安気に揺れている。
「昨晩は──」
村上はその先を言い淀む。
「なに」
「いや、寝苦しくはなかったかなと思って」
冷房が無いとはいえ湿気もなく、夜は特に東京よりも数段過ごしやすいと言うのに、寝苦しい訳がない。
「大丈夫、ここらの夜は気持ちがいいね」
しかし村上が言えなかったその先の言葉に、八雲は心当たりがあった。だから気付かぬふりをした。
「痩せたな」
肩をさすりながら、村上がぽつりと囁く。
「そうかな。自分ではあまり」
村上は心配性だ。確かに痩せた。けれど、そこまで大袈裟に変わった訳でもない。相変わらず肩をそっと撫でる村上から視線を逸らし、八雲は胸の前で手を合わせた。
「いただきます」
採れたての野菜や昨晩余った煮物。八雲が食べ始めてから村上がよそってきてくれた、古びた茶碗に盛られた白米は朝陽を受けて煌めき、味噌汁からは白い湯気が立ち上る。クマゼミが競い合うように鳴き喚く中、ぱちん、ぱちんと小気味のいい音が背中に響く。時折勢い余って飛んだ茎が頭やら肩やらにぶつかり、大して痛くもないのに振り返り目を細めると、村上は悪びれもなく笑った。愛しい微笑みと幸福の齎す泥濘に身を浸しながら、再び円卓に向かい八雲はそっと瞼を閉じ吐息を咬み殺す。
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