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その晩、三人で囲む円卓は、まるで花が咲いたように賑やかで。村上も、八雲も、心の底から織希の成長を日々嬉しく感じていた。
シキを寝かし付けてから二人で持つようになった大人の時間。確かめるように口付けて、抱き合って。けれどこの一週間、二人は意識的に織希の話以外はしなかった。
その日も縁側に並んで腰を下ろし、指を絡めて鈴虫の歌を聴く。何となく黙り込んでいると、村上は突然指先に力を込めた。
「なにかあるのだろう」
こちらを振り向いた気配は感じるのに、視線を向けることもできない。
「毎晩酷く魘されているから」
細い吐息を吐いて、視線を落とす。不安気に手を握り締める村上を前に、誤魔化す事ももはや出来ない。
「村上さんに、背負わせたくない」
言ってごらん、と囁いて、村上は俯く八雲の頭を胸の中に引き寄せた。
「覚悟がなければ、ここまで来たりはしない。二年間信じて待っていたりしない。分かっているはずだ。俺が、どれ程流を想っているか。おまえの罪も、何もかも、受け止め背負う覚悟がある」
痛い程の想いを感じながら、八雲はそっと瞼を閉じる。
「自分を見詰め直したいんだ」
村上は何も言わず、微かに震える背に腕を回した。
「時間をちょうだい。お願い、少しだけ」
貴方に会えて良かったと、心から言える自分になりたい──村上の腕の中、そう願いながらも、八雲はきつく唇を噛み締めた。
いつから、一体いつから、思い出せば良いのだろう。
【空白の二年・完】
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