第一章 空白の二年

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 その晩、三人で囲む円卓は、まるで花が咲いたように賑やかで。村上も、八雲も、心の底から織希の成長を日々嬉しく感じていた。  シキを寝かし付けてから二人で持つようになった大人の時間。確かめるように口付けて、抱き合って。けれどこの一週間、二人は意識的に織希の話以外はしなかった。  その日も縁側に並んで腰を下ろし、指を絡めて鈴虫の歌を聴く。何となく黙り込んでいると、村上は突然指先に力を込めた。 「なにかあるのだろう」  こちらを振り向いた気配は感じるのに、視線を向けることもできない。 「毎晩酷く魘されているから」  細い吐息を吐いて、視線を落とす。不安気に手を握り締める村上を前に、誤魔化す事ももはや出来ない。 「村上さんに、背負わせたくない」  言ってごらん、と囁いて、村上は俯く八雲の頭を胸の中に引き寄せた。 「覚悟がなければ、ここまで来たりはしない。二年間信じて待っていたりしない。分かっているはずだ。俺が、どれ程流を想っているか。おまえの罪も、何もかも、受け止め背負う覚悟がある」  痛い程の想いを感じながら、八雲はそっと瞼を閉じる。 「自分を見詰め直したいんだ」  村上は何も言わず、微かに震える背に腕を回した。 「時間をちょうだい。お願い、少しだけ」    貴方に会えて良かったと、心から言える自分になりたい──村上の腕の中、そう願いながらも、八雲はきつく唇を噛み締めた。  いつから、一体いつから、思い出せば良いのだろう。 【空白の二年・完】
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