第七章 悪夢

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 三人で霧雨の中手を繋いで家へと帰り、何時も通り仲良く村上の作った美味しい夕食を頬張り、村上が織希を風呂に入れて、寝かし付けている間に八雲が風呂に入る。湯上りに庭を眺めて、村上が戻って来るまで虫の音を聞きながら待って────。  こうして、幸福な毎日を繰り返す。  そう思うだけで苦しくて堪らず、ガラス戸を閉めた縁側で、八雲は膝を抱えて蹲っていた。  ぽん、と頭に軽い衝撃が振って、次いで髪がぐしゃぐしゃと掻き乱された。驚いて顔を上げると、村上が見下ろしている。 「髪を乾かさないと風邪を引くぞ」  落ち着いた深い声と優しい微笑みは、いつでも八雲の胸に深い安堵と共に握り締められるような痛みを与える。 「雨、止んだな」  ガラス戸を引き開け、村上はちいさく呟く。八雲は無意識にそんな村上の指先に手を伸ばした。 「どうした」  驚いて振り返り、村上は八雲の隣に腰を下ろした。八雲が縋るように伸ばした指を決して離さないよう、指を絡めて。その優しさに胸が熱くなり、わざとむくれて見せる。 「恋人だなんて」 「嫌だったか」  八雲はちいさく首を振って、風呂上がりの濡れた前髪をそっと耳にかけた。
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