第八章 永遠の支配

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 朝か──また、朝が来たのか。八雲は身動ぎをして、枕に鼻先を擦り付けた。もう、村上の匂いは残っていない。  村上と織希がいなくなった部屋は、随分と静かだ。思えば長い事ひとりで暮らしてきて、こんな風に感じた事はなかった。怒号も、罵声も、喘ぎも、荒い息遣いも、肉と肉がぶつかり合う音も、何もない静寂が心地よかった。  誰かを守っていると言う自己満足に浸り、勘違いしたまま死んでゆく筈だったのに。愛する事を知った途端、ひとりがこんなにも心細い。  ニュースで織希の存在が社会に知れ渡り、吉田の言う通り、田宮は死んだ。小笠原が動き出す前に、村上と織希は小笠原が知らない村上の知り合いの元へと発ったのはもう、随分と前の事。  小笠原には村上を始末したと伝えた。信じているかどうかは知らないし、その後の小笠原の態度を考えると信じてはいないだろう。けれど、それでも良かった。  声が聞きたい、顔が見たい、指を絡めて、あまい口付けを交わし、また、おおきな腕で抱き締めて欲しい────。  数え切れないほど男に抱かれ、数え切れないほどのキスをして。それでも色褪せない。たった一夜限り、あの男と交わした情。  裸の身体を抱き締めて、八雲は飽きもせず何時ものように、村上の部屋で村上の匂いが消えた枕に涙を落とした。
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