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八雲が夢想している間に、吉田は喉奥深く精を放っていた。余りにも浸りすぎていた八雲は、思わず酷く咳き込んだ。涎に混じった白濁が唇の端から漏れ出てゆく。
「汚ねえなあ、零すんじゃねえよ」
突然、吉田のおおきな掌が頬を打った。
「やっ……!」
「どうした、可愛い声出しちゃって。また勃っちまったじゃねえか」
どうして、男たちは自分を殴りたいと思うのだろう。そんな答えのない問いを胸のうちで繰り返していると、吉田は再び立ち上がり八雲を爪先で小突いた。
「ほら、早くケツ出せよ」
動かないとまた叩かれるのではないか。その恐怖から、八雲は反射的に身を起こし、四つん這いになり吉田に身体を差し出した。
「ああ、こりゃ随分可愛がられたなあ。赤くなってやがる」
屈辱に震え、思わず攻撃的な言葉が口をつく。
「こんな事が小笠原にバレてみろ、お前なんか──」
「誰にもの言ってんだ。いいのか、チクっても」
飽きもせず、吉田は同じネタで八雲を揺すっている。もう、うんざりだった。
「好きにしろよ」
そもそも小笠原にバレたところでどうなる。村上にはどうせ、もう二度と会えない。
八雲は村上に嘘をついた。小笠原から逃げ果せるなど、どだい無理な話なのだ。それは分かっていた。だからせめて二人を守りたかった。それを言えば村上は力尽くでも八雲を連れ去っただろう。
けれどあれからもう季節をいくつも超えて、村上も既に諦めているのではないかと最近は思うようになった。小笠原の恐ろしさは、村上だってよく分かっている筈。一夏の恋にしては切なすぎるが、村上や織希と過ごした日々は、八雲にとって何よりも大切な思い出だった。それだけで十分すぎるほどに。
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