第八章 永遠の支配

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 八雲が村上を始末したと知ってから、小笠原は裏切られた反動からか、八雲を連れ歩く事も、客を取らせる事もやめた。このマンションに閉じ込め、許す外出と言えば簡単な買い物や堺の病院に行く程度。  そして小笠原は抜き打ち検査のように八雲の家を訪れるようになった。村上が織希を連れ東京を離れた頃、丁度一人娘が結婚して家を出た事もあり、元々仮面夫婦だ。何の障害もなくなったお陰で、朝まで入り浸る事もある。  小笠原はいい。だが問題は吉田だ。今日のように小笠原が帰った後を狙い家に上がっては、こうして好き勝手八雲を使う。無用心だがずる賢い吉田は、八雲が始末を命じられた男達を逃して来た過去の裏切りを飽きもせずちらつかせては悦に浸る。  だが最近、それもどうでも良くなって来ていた。どうせ二度と村上にも会えず、誰を守るわけでもなく身体を開かされる。八雲にとって重い意味があった行為も、今や何の為のものでもない。唯々意味もなく生きながらえる為のもの。  最早生への固執は消えかかっていた。いっそ一思いに殺された方が、随分と気は楽だ。  あの夏の早朝、闇がゆっくりと払われてゆくバスターミナルで二人を見送ってから一体、どれ程の時が流れたのだろう。相変わらず八雲の身体に季節は馴染まず、社会から隔離された人生と同じよう、時間は知らぬ間に流れていた。
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