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けれど、八雲の心とは裏腹に、事態は悪い方へと向かってゆく。それは、東京に間も無く二人が消えて二度目の夏が訪れようとしていた日の事だった。
その日も吉田は小笠原が帰った直後に現れて、八雲の身体を弄っている。散々小笠原に抱き潰された身体はもう動く事もままならなくて、八雲はぼんやりと男の舌の熱を感じていた。
最近ではもういつもの脅しは通じなくなっていて、八雲にしても吉田を悦ばせる意味もない。小笠原がまた夕方には戻って来る事を伝える義理もなく、なんならこのまま鉢合わせでもして、二人揃って殺されるのも悪くない。
そんな事を考えながら身を預けていると、吉田は突然思いがけぬ事を口にした。
「そうだ、村上に会いてえか」
思わず八雲が反応をしてしまった事に気を良くしたのか、吉田は舌先を遊ばせながら下品な笑みを浮かべた。
「俺が満足したら教えてやってもいい」
「デタラメだ。村上さんは、俺が殺した」
「デタラメだと思うなら好きにするんだな。愛する村上さんがどうなっても知らねえぞ」
不貞腐れたように身体を離し、シャツに腕を通す吉田の背中を眺めながら、八雲は必死で呼吸を繰り返した。
そんなはずはない。村上の居場所を知っているなら、もっと早く吉田はそれをダシに八雲を揺すった筈だ。だが、あれからどれだけの月日が流れた。もしかしたら最近見付けて、二人はもう既に小笠原の手に落ちているのではないか。村上が逃げた先は同じ日本だ。絶対に逃げ切れるとは言い切れないのも事実。
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