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暫くして、八雲は堺の元を訪れた。空いた病室のベッドに寝そべりながらぼんやりと天井を見詰め、何度も深い息を吐く。枕元でカルテを見ていた堺は、その度に八雲に視線を投げ、優しく微笑む。
「一緒に、逃げちゃおうか」
唐突な堺の言葉に、八雲もまた微笑んだ。そうする事が出来たら、どんなにいいか。
「村上さん、新しい場所で彼女作っていたらどうしよう」
「恋は盲目だね。流が思うほど、彼モテるタイプじゃないよ」
「失礼だな」
むくれる八雲の髪を撫で、堺の優しい声が何度も聞いた言葉を囁く。
「村上さんも織希も、諦めていないと思うよ。流を信じて待っている。だから生きろ」
ちいさく頷いて身体を起こす。髪に触れていた堺の手を両手で握り、八雲は深く頭を下げた。
「堺さんには感謝している。本当に。支えてくれてありがとう」
堺は呆気に取られたように呆然と八雲を見詰めていた。
「誰も守る事の出来なかった俺にも、まだ出来る事があるんだ」
だから、そう続けて、八雲は深く息を吐いた。
「最後のお願いだ。聞いてくれる?」
その気迫に気圧されるように、堺は恐る恐る首を縦に振った。
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