第八章 永遠の支配

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 小笠原が悦ぶように、必死で腰を振り、搾り取るように締め上げる。涙ばかりが後から後から溢れては落ち、小笠原の胸を濡らす。  脳は熱を上げ、けれど指先は冷えてゆく。本当にこの選択は正しいのか、此の期に及んで何度も惑い、その度に思い出す、二人のしきの事。笑っていてほしい。幸せが常に彼らを包み込んでいて欲しい。なにに追われることもなく、微睡みの中、長い命を終えて欲しい。 「愛しているんだ、村上さんの事を、守りたいんだ……!」  そうか、と囁いて、小笠原は穏やかな笑みを浮かべた。 「首輪は外してやる。好きに生きてみろ」  追い立てられるように全体重を腕にかけ、叫びか、嗚咽か、喘ぎかも分からぬような悲鳴を上げながら、八雲は夢中で小笠原の気道を締め上げた。 「ごめんなさい」  ごめんなさい、ごめんなさい、小笠原さん────何度もそう繰り返し、八雲は震え続ける掌に力を込める。  息苦しさに肺が空気を欲し、荒い呼吸を繰り返しながら、みるみる蒼褪めてゆくくちびるから目を逸らさず、小笠原の最期の命の煌めきを指先から感じた。  呑み込んだ怒張がはげしく脈打ち、熱い迸りが満ちてゆく。どくん、どくんと響く鼓動は、呼吸を求め暴れ回る足がぴたりと静止するのに合わせ、ゆっくり、ゆっくりと消えて行った。
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