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にこやかな笑顔でそう言われ、てっきり一緒のバスに乗るもんだと思っていた僕は正直戸惑ったけれども、必死にそれを顔に出さないようにしてバスに乗る準備を始めた。 実際の所、僕自身もバスに乗らなくても良かったんだけど何となく引けなかった。 どんどんバスが近づいてくる。彼女の連絡先を聞きたい衝動に駆られたけれど、何となく自分から彼女の連絡先を聞いてしまうのがおこがましく感じて言い出せない。 僕の気持ちをあざ笑うかのようにバスが停まる。 「今日は楽しかったです。」 微笑みながら彼女がそう言う。 「僕も楽しかった、すごく話が合って……」 言葉に詰まる僕、簡単なはずの一言が出てこない。バスの扉が開く。 バスに乗り込む瞬間、僕は後ろを振り返る。 彼女が僕を見つめている。 「これ、君にあげるよ。」 手に持っていた文庫本を彼女に渡した。 一瞬驚きながら、彼女はまた笑った。そしてこう言ったんだ。 「ありがとう、私今日誕生日だったの。次、会った時に感想言うね。」 スローモーションのようにバスのドアが閉じる。そして静かに走り出す。 彼女から僕はどんどん離れていく。 「まいったなぁ。」 自然と僕の口から言葉が溢れた。 誕生日か……僕も今日誕生日なんだよね。 こりゃ、また彼女を探しに雨の日はあの本屋に行かなきゃなぁ。
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