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「あ、うん。」 また僕は何も気の利いた返しができない。 そんな自分にちょっとイライラしたせいもあって、僕も彼女に問いかけた。 「えっと、二人とも同じ本屋にいて僕と君は同じ本を買いたいって思ってたわけなんだよね?えっと、でももう僕がそれを買っちゃったから君はそれを読みたいって事かな?」 と声に出した瞬間、それって何だか上から目線じゃないかと僕自身が焦ってしまった。 「あ、ごめん、嫌味とか上から目線とかじゃなくて……」 ワタワタしながら訂正しようとする僕、すると彼女は突然急に笑い始めた。 「大丈夫です、そんな風に思ってませんから。これでも私、人を見る目はあると思っているので。私、単純に好きな本がかぶる人とちょっと話したかっただけなんです。この雨だし、たまにはこんな事あってもいいと思いませんか?」 相変わらず雨はひどく降っていて雨音が激しいはずなのに、何故だか彼女の声はすぅっと僕の耳に流れ込んでくる。 不思議な子だなと、僕はちょっと思ったけど嫌な気持ちはしなかった。 それよりも、こんな風に知らない子と話す機会なんてないだろうから雨に興じて彼女と話すのも悪くはないんじゃないかと思い始めていた。 「確かにそうだね、じゃあお互い好きな本の話でもしようか?」 僕は開いていた文庫本を閉じて、彼女と向き合った。 彼女の髪は雨で濡れていて、何だか少し輝いているような感じがした。 そこから僕らは好きな小説家の話をしたり、おすすめの本を紹介しあったりした。 初めて会ったはずなのに、気がつけば緊張もせず僕はスラスラ話していた。 あぁ、これが俗にいうしっくり来るという感じなのだろうか? どの位彼女と話していただろう?このままずっと彼女と話ができればいいのにと思っていると、収まってきた雨と共にバスがやってくるのが見えた。 「あ、バスが来た。君もバスに乗る?」 「いえ、実はうち反対方向なんです。あ、でも近いから歩いて帰れるので心配しないでくださいね。」
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