1人が本棚に入れています
本棚に追加
エレベーターが停止して開いたフロアに降り立った彼は、傘の先端をタイル性の床に引きずり、カラカラと音を立てながら廊下を歩いていく。そうしてやがて彼は一つのドアの前で立ち止まった。入り口で押した四桁の数字がついているドア。
「花柳」
表札にはそう書かれている。
「素敵な名前だなぁ」
青年はとても穏やかにそう言って微笑んだ。
無造作にドアノブをつかんでひねると、抵抗なくドアが開いた。
「やれやれ、不用心なんだよね。困っちゃうよ」
苦笑い。
空いたドアの隙間から体を滑り込ませて、後ろ手にドアを閉め、鍵もかけた。
最初のコメントを投稿しよう!