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その瞳は黒く濁り、何も映していない。まるで彼女を漆黒の虚無へ吸い込もうとしているかのように、いくつもの黒い渦が瞳の中でゆっくりと蠢いていた。
青年は無造作に女の首に手を伸ばす。その指は、まるで別の生き物のようにうねり、彼女の白い喉に触れるやいなや、その柔らかい肉に食い込んだ。
「あ……が……」
「愛していたのに」
青年は一筋の涙を流した。
女性の手が宙をひっかく。
「アハハ、エアピアノ?」
一転楽し気な青年。
当然、答えは返ってこない。
ミシミシ、と何かがきしむ音を聞きながら、青年は鼻歌を歌い始めた。
びくびくと動いていた女性は、やがて動かなくなった。
青年はそれをその場に放り出し、ため息を吐いた。
「やれやれ、困っちゃうよ」
そう言って場違いに朗らかな笑みを青年は浮かべた。
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