幸運と悪運

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『って、増水してても浅いじゃねぇか!?』 『あのぅ…大丈夫ですか…?』 腰ほどまでしかない川で溺れているのを人に見られていたようだ、気づけば犬はいなくなってるしただただ恥ずかしい。 『や、大丈夫ッス、気にしないでください…』 声をかけてきた少女、さっきの犬が追いかけていた女である、初めて聞いたその声は透き通るような音で、その声に驚き目を合わせるとつい怒りを忘れてしまうくらいには美人だった。 『…さっきの人ッスね、何しに来たんすか』 あまりの美しさに驚きを隠せず冷たい対応をしてしまうが、彼女は申し訳なさそうな顔でオグに手を差し伸べる。 『あぁ、えと、落ちたのが心配できたんじゃなくて、いや心配してたんだけどそうじゃなくてね、さっきはありがとう…って言いに来たんです、お兄さん私の代わりに追いかけられちゃったみたいだから…』 うるうるとした瞳でこちらを見られ腹を立てていたことに気が引けてくる、よりによって優しくて美人、八つ当たりできるような相手じゃないのもまた運が悪い、ストレスが溜まる一方である。オグは煮え切らないままコミュ障を発動し、挙句謎口調で対応してしまう自分に腹が立つ。 『…あぁ、えと、すんません、大丈夫ッス…』 何が大丈夫だよ!?それにッスってなんだよ!と自問自答しつつ少しずつ彼女と距離をとる。 『あ、待って、風邪ひいちゃうから、家近いから、その、来て?』 『は…?え、えと、はい…?』 開いた口が塞がらない、見知らぬ美人の家に、いきなり上がるなんて、いやいやいや、恋愛漫画じゃあるまいに、そんなふざけたことがあるわけが… 『だからぁ!迷惑かけたじゃないですか、嫌な思いさせたのになんか八つ当たりするのも我慢してる風だし、申し訳なくて、えーと、ほら風邪ひかないうちに、ね?ほら行くよ!レッツゴー!』 暖かくやわらかい手にオグはグイッと引かれて家に半ば強引に連れていかれることになった。初めて少し運がいいんじゃないかと思いながら、びしょ濡れの身体で彼女の家へと向かった。
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