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鈍い音がした。
何度も聞いてきた肉が斬り裂かれる音。
しかしその音は、今までのどれよりも頭に響き渡り、いつまでも耳に残った。
自分の腕の中に倒れゆく愛しき存在は、真っ赤に染まった衣を纏い、言う。
「どうか、お許し下さい」
自分を斬った相手に。
刀を振るった侍は、紙で血を拭いそれを鞘に納めた。
「忠匡様、私は幸せでした」
血に濡れた手は力が入らず、小刻みに震えていた。
咄嗟にその手を掴み、瞳を見つめる。
「どうか……ご武運を」
半分だけ目を閉じ、ガクリと頭を倒した。
「──っ、桔梗様!!」
忠匡は、力の限りその身を抱き留めた。
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