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「何年かして偶然このお店の事を知って。一度覗いて、チーフが懐かしそうに笑ってくださったんです。それだけでも十分だったはずなのに、会社以外の顔を見てしまったらもう…」
「…告白はしなかったんですか?」
あの頃とは違って冷静な目で
あの頃は邪魔をした私が言う。
苦笑いしながら話を続けた。
「ありがとうって言われただけです。あなたからあからさまに遠ざけられてもいましたし」
「…ごめんなさい」
「ううん、違います。多感な時期に気に入らなくて当然だと思いますし、結局チーフが私を好きになってくれなった。そう言う事ですから」
麻生君は話がどこに行き着くのかひたすら傍観していたけど口を開く。
「今関係ありますか?それ。京香を傷付けるような話ならお帰りください」
谷口さんの伯母さんはもう一度苦笑いしながら
「ごめんなさい、そんなつもりはありません。
当時この子を何度がここへ連れて来ていたんです」
彼女はふっと苦笑いを浮かべた。
「ここへ一人であからさまに通い過ぎてたから言い訳みたいにたまには誰かを連れて来たくて。この子はその時の私の様子を覚えてたから…
今の麻生さんの事と関係ないのに重ねちゃって、あれから結婚しないで仕事一筋でやってきたから色々誤解して」
立ち上がって深く頭を下げる。
「本当に申し訳ありませんでした。涼子には良く話して誤解も解いてます。やった事についてきつく叱責しました。本人も反省してます」
それにならって謝罪の言葉を口にしながら涙目の谷口さんも同じよう深く頭を下げた。
結局 谷口さんの事は不問に付した。
今回発端である麻生君の件を上司に報告したのは谷口さんだった。
麻生君は上司に 監査として今は目立って関わるなと注意されたのに
麻生君は私に今関わらなかったら一生後悔するから と上司には頭を下げ、呆れられたらしい。
でも上司はあからさまに問題にしたのではなく 彼からも聴き取りを行った上で 込み入った案件に麻生君を急遽抜擢する形を取ったらしい。谷口さんの話を聞くに つまり彼を大層買っているからだろう。
これ以上麻生君の件を複雑にしたくなかったし
出来れば大袈裟にしないで欲しいと言う私の意見を麻生君が聞き入れてくれた。
「少しいいですか?」
別れ際 谷口さんが麻生君に声をかけた。
「もう私とプライベートでは話もしたくないと分かってます。でも最後に少しだけ」
断りそうな麻生君を見て私はあわててさえぎり、
今にも泣きそうな彼女を見て居たたまれなくて一番遠くの席に二人を誘導した。
麻生君は不服そうに私を見遣ってから諦めたように用意した席に移動した。
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