479人が本棚に入れています
本棚に追加
それにもう、時間的にも、どちらにしろ予約客の相手をするのは無理な気がする。客には申しわけないことをした。
(……遊郭の連中は、俺がいなくなったっつって、心配してんのかなぁ……)
たびたび脱走して遊んでいるが、さすがに営業中に消えたことはないから、不測の事態だと受け取られているはずだ。
眞尋の乗っているBMWからもヤクザたちは降りだした。ひとりが声を張りあげる。
「総長はここに! 残って下さい!!」
理夏は眞尋の肩に触れた。
「眞尋、俺たちも降りよう、早く」
「いいのかよ、てめぇ、総長と話さねーで……」
降車するヤクザの勢いにまぎれ、理夏に押されるようにして外に出る。運転手は「しまった」という顔をしている。智秋の声も響いた。
「待て、理夏、俺はお前の味方だ──……!!」
切実な訴えを振りきるように、理夏は扉を勢いよく閉める。
郊外の辺鄙な路上は、まさに戦場と化していった。車のライトに照らされて光の粒のように舞う雨にまみれ、争う男たち。胸ぐらを掴みあって、殴りあって、罵声と怒声が重なりあう。
さすがに銃声は響いていないが、そのうち飛びだしてもおかしくない。あたりに人家がないのは、幸いといえば幸いかもしれなかった。
争いに巻きこまれるのを避けて、道際に寄りつつ、眞尋は理夏に尋ねた。
最初のコメントを投稿しよう!