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「さっきから、フカセっつーのは誰なんだよっ?」
「梧桐一家の若頭だ」
「……あー、なるほどなぁ、そういうことかよ……!」
眞尋の頭のなかで情報が整理される。梧桐一家は総長派と若頭派に分裂している──理夏は若頭派に属すということか。
ひとりで納得している眞尋に、理夏は怪訝な顔をした。
「なにが『なるほど』なんだ……」
理夏は激しく喧嘩する男たちを一瞥もする。道の端に寄っても、ふとすれば巻きこまれそうなほどの争いで、純粋に理夏を取りあっているというより、理夏の取りあいを大義名分にして戦っているように眞尋の目には映った。
それは理夏もおなじようで、しみじみと呟く。
「本当に嫌だな……ヤクザって人種は……荒っぽくて、狡猾で、腹黒くて、信用できない……」
「んでもよぉ、助けを寄越してくれたんだろ、若頭は?」
「智秋よりは信頼できるっていうだけの話だ」
雨に濡れながらも、眞尋は身を乗りだして見回す。
「その若頭も来てんのか? どいつだよ?」
「深瀬自ら足を運ぶことはないと思う。まぁ、騒ぎが落ち着くまでここで待ってるか」
「呑気だな! ……でも、そのほうが良さげだよなぁ、こっちは丸腰だしよ」
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