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眞尋は頷き、あぐらをかく。神楽殿に上がるときに草履も脱いだので素足だ。
男たちの声を聞きながら、眞尋は先程の智秋の言葉を思いだす。
『こんな日々を送っていたら、じきに命も失うかもしれない』
……もっともだと思う。
ヤクザは覚悟の上で生きている。だから、護衛をつけたり、銃を持つだけなく、日々身なりを整えて清潔にし、いつ死んでも見苦しくないように心がけている。
彼らと理夏は違う。一般人だ……そこまで考えてから、眞尋は首を傾げた。
「ん……? そういや、お前ってカタギなんか……?」
「……たぶん……」
理夏の返事は頼りない。眞尋は「たぶんってなんだよ」と突っこむものの、返事はない。
「つうかさ、それ脱いだほうがいんじゃねぇのか。風邪ひいちまうって」
カーディガンはひどく湿っている。理夏は黙ったまま、膝を抱えて体育座りをしている。
眞尋は腕を伸ばし、理夏の肩を揺らした。
「なぁって……聞ぃてんのかよ?」
「……眞尋は、ヒかないのか」
雨の音にまぎれて、呟かれた言葉。
眞尋は首を傾げる。
「は? ヒク?」
「ヒかなさそうだな……眞尋なら。ヤクザの息子だし、遊郭で色んな人間見てるだろうし、好きでもねぇ男とヤって金稼いでんだよな……」
理夏は目を細める。穏やかな微笑だ。
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