第一章 夜半の邂逅 3

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 急にそんなことを述べられても、眞尋には困惑しか湧かない。 「それって悪口なんか、褒めてんのか、どっちなんだよ?」 「悪意はない……ただの事実と推察だ」 「確かに、事実っちゃ、事実だけどよ……」  眉根を寄せる眞尋の前で、理夏は湿ったカーディガンをはだけた。あらわになる、Tシャツから覗く両腕には手首までびっしりと刺青が入っている。  立派な彫りものだった。  龍に絡むのは牡丹の華たち。龍の鱗は漆黒と群青の墨色、咲き誇る華は真紅。理夏の白い肌に映えて艶やかなほどに美しい。  まさか、理夏が服の下にこんなものを秘めているとは思わなかった眞尋は驚いて目を見開く。  眼光の(くら)さ、陰を纏う言動など、さまざまな部分で街にいる普通の少年たちとは異なってはいるが、これほどの刺青を入れていたのは予想外だった。  遅れて響く音のあとに、うわずった声を漏らす。 「なっ……なんだよ、てめぇ……すげぇ墨入れてんじゃねぇか……!」 「ヒいたか」  カーディガンを脱ぎ捨てた理夏に、眞尋はぶんぶんと首を横に振った、雫が跳ねるほどに。 「いやっ……驚いただけだ、てめぇに刺青っつぅイメージがなかったからよ……」  きっと背中にも、ひょっとすると脚にも入っているかもしれない。     
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