第一章 夜半の邂逅 3

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 理夏は刺青をなぞるように、右手で左腕を擦る。 「自由になるために入れた」  何を言っているのかと、眞尋は怪訝に理夏を見つめた。 「……自由だぁ……?」 「これで駄目だったら、硫酸でも被るか、顔を潰して鼻も削いでやろうと思った……」  理夏はうつむき、うつむいたままで教えてくれる。 「五年間、地獄だった、上海でマフィアのオモチャにされていたんだ」  また夜空が点滅し、雷鳴のあと、遠くでヤクザの怒号もした。  眞尋は理夏を見つめたまま、まばたきを忘れてしまう。理夏は話を続ける。 「俺の母親は、俺を産んですぐに病気で死んだ。だから施設を経由して、親切な爺さんと婆さんに引き取られて、自分でいうのもなんだけれど普通に育っていたんだ」  理夏はふたたび、うずくまるように膝を抱えてしまった。 「十歳のときに……梧桐一家の連中が尋ねてきた。知らなかった……父親がヤクザの頭だなんて。そして梧桐一家は、俺を引き取らせて欲しいと言ってきたんだ。ヤクザになんて渡せないって爺さんが断ったら、引き上げていったけど」 「懲りずに、また来やがったのか?」  眞尋の言葉を、理夏は「もっと最悪なヤツが来た」と、否定する。 「チャイナマフィアだ」 「……はぁあ?」     
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