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理夏は刺青をなぞるように、右手で左腕を擦る。
「自由になるために入れた」
何を言っているのかと、眞尋は怪訝に理夏を見つめた。
「……自由だぁ……?」
「これで駄目だったら、硫酸でも被るか、顔を潰して鼻も削いでやろうと思った……」
理夏はうつむき、うつむいたままで教えてくれる。
「五年間、地獄だった、上海でマフィアのオモチャにされていたんだ」
また夜空が点滅し、雷鳴のあと、遠くでヤクザの怒号もした。
眞尋は理夏を見つめたまま、まばたきを忘れてしまう。理夏は話を続ける。
「俺の母親は、俺を産んですぐに病気で死んだ。だから施設を経由して、親切な爺さんと婆さんに引き取られて、自分でいうのもなんだけれど普通に育っていたんだ」
理夏はふたたび、うずくまるように膝を抱えてしまった。
「十歳のときに……梧桐一家の連中が尋ねてきた。知らなかった……父親がヤクザの頭だなんて。そして梧桐一家は、俺を引き取らせて欲しいと言ってきたんだ。ヤクザになんて渡せないって爺さんが断ったら、引き上げていったけど」
「懲りずに、また来やがったのか?」
眞尋の言葉を、理夏は「もっと最悪なヤツが来た」と、否定する。
「チャイナマフィアだ」
「……はぁあ?」
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