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慎重にゆっくりと戻っていけば、しだいに路上の外灯の光が、眞尋たちに届いてきた。
どんな状況になっているのかは分からないので、眞尋は少し緊張する。理夏もそうなのかもしれない。黙ったまま、ぎゅっと強く眞尋の手を握ってくる。眞尋も無言で握り返す。
繁みの向こうに黒塗りのベンツが三台停まっているのが見えた。深瀬──若頭派の車たちだ。
遊郭からここまで乗せられてきた智秋の車は消えている。当然かもしれない、組のトップを乗せているのだ。喧嘩に勝とうが、負けようが、ひとまずは撤退するだろう。理夏との話しあいはまたの機会にして──
草むらから出てきた理夏と眞尋に、組員たちが駆け寄ってきた。
「理夏さん!」
「無事でしたか!?」
理夏は頷き、状況を手短に告げた。
「電話が壊れた。被害はそれだけだ」
「そうですか……これは遊郭の女形ですか?」
ヤクザたちの視線は、理夏から指先を離した眞尋に集中する。訝しむような目だ。
誰も眞尋の正体は知らないらしい。そういえば智秋にも『遊郭の子』と呼ばれた。
蜷川会の人間だとバレていないのなら、そのほうが良いとも思う。知られたら余計に話がややこしくなるかもしれない。
眞尋はあくまでもただの娼妓を装うことにした。
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