第一章 夜半の邂逅 3

16/17
467人が本棚に入れています
本棚に追加
/220ページ
 慎重にゆっくりと戻っていけば、しだいに路上の外灯の光が、眞尋たちに届いてきた。  どんな状況になっているのかは分からないので、眞尋は少し緊張する。理夏もそうなのかもしれない。黙ったまま、ぎゅっと強く眞尋の手を握ってくる。眞尋も無言で握り返す。  繁みの向こうに黒塗りのベンツが三台停まっているのが見えた。深瀬──若頭派の車たちだ。  遊郭からここまで乗せられてきた智秋の車は消えている。当然かもしれない、組のトップを乗せているのだ。喧嘩に勝とうが、負けようが、ひとまずは撤退するだろう。理夏との話しあいはまたの機会にして──  草むらから出てきた理夏と眞尋に、組員たちが駆け寄ってきた。 「理夏さん!」 「無事でしたか!?」  理夏は頷き、状況を手短に告げた。 「電話が壊れた。被害はそれだけだ」 「そうですか……これは遊郭の女形ですか?」  ヤクザたちの視線は、理夏から指先を離した眞尋に集中する。(いぶか)しむような目だ。  誰も眞尋の正体は知らないらしい。そういえば智秋にも『遊郭の子』と呼ばれた。  蜷川会の人間だとバレていないのなら、そのほうが良いとも思う。知られたら余計に話がややこしくなるかもしれない。  眞尋はあくまでもただの娼妓を装うことにした。      
/220ページ

最初のコメントを投稿しよう!