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『レディ・エメラルド』が発表されたのは作者が亡くなった10年後、弟子のニコルソンが美術館に寄贈する形で公表した。
当時、肖像画に代わり写真が一般に普及し始めた頃。ある新聞記者が『レディ・エメラルド』を写真におさめようとしたがニコルソンから制止された。
「レディは絵画でしか皆様の前でお見せできない、どうか足を運んで貴方の目でレディを観に来て欲しい。亡き先生の願いです。」
肖像画家ランドルフはとても真面目で手を抜かない、職人気質な男だったという。
そんな彼の作風はモデルに忠実なまでの写実性。表情から滲み出る人格、雰囲気までも伝わるような精密な描写がリアリティに溢れ、写真が増えつつあった晩年も依頼が絶えなかった程だ。
加えて写真・模写禁止という公に出回らない『レディ・エメラルド』は注目を集め、寄贈された美術館は観覧客で賑わった。
『レディ・エメラルド』の人気は本来、当時の流行に終わるものと思われていた。
しかし違った、彼女の人気は公表後しばらく経っても衰えることはなかった。
理由は多くの観覧客が体験した『レディ・エメラルド』に起こる、ある不思議な現象である。
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