『時間』の概念のない世界

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『時間』の概念のない世界

 「はあ、やっと平日も終わったか」  バーカウンターの前に座ったS氏は、ため息と共に呟いた。  金曜日の夜21時。この国の大部分の人々にとっては、この先2日間は仕事から解放されるという、1週間で最も晴れ晴れとした時間である。  会社員のS氏にとっても、今日は、1週間の仕事終わりの日。ただ日々生きるのに必要な金を稼ぐためだけの、退屈な労働から、一時的に解放される日。  それなのに、会社を出てからずっと、彼の表情は冴えない。それは、たまに寄る自宅の近くのバーに入ってからも、変わる事はなかった。それどころか、飲めば飲む程に、その顔付きは険しくなり、滲み出る疲労の色も濃くなっていくようであった。
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