第八章 ゼウス、天から望む

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清潔感溢れる髪をなびかせた青年は、頬を赤く染め、皺の無いスタイリッシュなパンツに通した足で、一歩ずつ彼女の方へ近付いていく。 ショートヘアを微風に揺らせ、携帯電話を触っている彼女は、画面に向けていた顔を青年のいる方へ向けると、途端笑顔になった。そして――青年の方へ小走りで近付いた。 「まさか、これは…」 「ゼウス様ぁ、私達の願いが実る時がやっと…」 「ゼウス様!間違えなくこれは…」 神々が恋物語の幸せな結末を確信して、胸を躍らせた時――小走りで掛けていた彼女は、青年の横を通り過ぎた。 そして、青年の後方にいた男子学生の隣で止まった。 男子学生と彼女は、輝かしい笑顔で見つめ合い、手を握り合った。その二人の姿を、青年は離れた位置から眺めていた。 アポロンは月桂樹の葉を一枚むしり取り、頭を横に振った。 「青年の恋物語が…こんな結末だったなんて」 アフロディーテは、長い髪を手櫛で梳かしながら、目に涙を浮かべた。 「青年くん…一生懸命、頑張りましたね。凄く素敵になった。でも…こんな結末、辛すぎますぅ」 ゼウスは、悲観的な表情を浮かべている二人に対し、一人楽観的な表情を浮かべていた。
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